2011年11月30日水曜日

227 金融問題の解決 (11/19)

エレイソン・コメンツ 第227回 (2011年11月19日)

現在,多数の評論家が世界の金融システムが崩壊の瀬戸際(せとぎわ)にあると書いたり述べたりしています.その時がいつ来るのか誰もはっきり分かっていないようですが,多くはそれがとてつもない崩壊(ほうかい)になるだろうと予測しています.だが,2008年に金融危機が起きる前は,その到来(とうらい)を予期していた人はごく少数でした.人々はしっかり根付いていて前進あるのみと思えていた自らの生活様式に満足していたからです.しかし,評論家の言うことが正しいとすれば,崩壊は間もなく起きることでしょう.

私たちは皆,一体なにが間違っていたのか,どうすればそれを正せるのかを改めて考えてみるべきです.以下にご紹介するのはバーニング・プラットフォーム “Burning Platform” というウェブサイトに最近掲載された記事から抜粋(ばっすい)した実務的な提案です.私は必ずしも皆さんが個々の提案に賛同し,私たちの壊(こわ)れてしまったシステムにとって代わるものが何かを考えるべきと言っているわけではありません.提案は政治にかかわるものと金融にかかわるものに分かれています.金融の方から始めます:--

*「破たんさせるには大きすぎ」 ( “Too Big to Fail” ),それゆえ国を盾にとり身代金(みのしろきん)を要求する “hold the State to ransom” ような銀行はすべて国営化すべきです.その結果生じる損失は責任者,当事者が払うべきで,納税者に負わせるべきではありません.
*(米国の)グラス・スティーガル法 “the Glass-Steagall Act” を復活させ,銀行が再び巨大化するのを防ぐべきです.
*営業・会計規則に望ましい基準を再設定し,銀行が自ら保有する資産価値が市場価値を上回るように見せかけることをやめさせるべきです.
*デリバティブ市場 “the derivatives market” を規制し,金融機関 “financial entity” が巨大化することでひとたびそれが破産するとシステム全体が崩壊するようになることを防ぐべきです(かつての米国で AIG の破たんで同じようなことが起きました).
*現在のわずらわしい所得税 “income tax” 制度を簡素化するか廃止し,消費税“consumer tax” に一本化すべきです.そして,法人税の節税措置 “corporate tax breaks” を廃止すべきです.

提案はいずれも直接的には金融にかかわるもの “…such proposals may be explicitly financial,” ですが,間接的には政治にかかわる “are implicitly political,” 点にご留意ください.というのは,提案の実現には国民全般,とりわけ指導者の政治的考え方が大きく変わることが必要だからです.( “…because to be put into practice they would need a significant change in the political way of thinking of the people and especially of the leaders”.)金融は政治いかんで決まります. ( “Finance depends on politics.” ) つぎに,明らかに政治にかかわる提案を見てみましょう.中には反論を呼ぶ提案もありますが、少なくとも正しい方向を示しています:--

*あまりにもうまくやっている政治家の腐敗(ふはい) “the corruption of too comfortable politicians” を食い止めるため,彼らの任期に厳しい制限をつけましょう.特殊な利益団体による選挙の腐敗 “the corruption of elections by special interests” を食い止めるため,陳情(ちんじょう)やロビイスト “lobbyists” を排除しましょう.
*中央銀行が持つ力 “the power of the central bank” を弱めるため,国の通貨供給 “the nation’s money supply” をコントロールする権限を取り上げましょう.
*米国の福祉給付金制度 “welfare benefits” を再編成すべきです.現在の制度は国の財政 “States’ finances” を急速に枯渇(こかつ)させており,このままでは将来だれの役にも立たなくなくなるでしょう.
*お金や物がなくとも楽しくやっていくよう,生活水準の低下 “a lower standard of living” も受け入れるよう国民を再指導しましょう.そうすれば社会を食い潰(くいつぶ)して無に陥(おとしい)れる “spending society into oblivion” かわりに貯蓄によって社会を立て直す “build it by saving” ことができるでしょう.
*郊外へのスプロール現象 “suburban sprawl” をより自給可能な居住区 “more self-sufficient communities” で代替させるべく実行可能なことから始めましょう.
*たとえば世界各地の軍事基地に駐屯する数万もの兵士を引き揚げることで “by bringing thousands of troops home from their bases all over the world”, 米国の巨額な軍事費 “the enormous military spending of the USA” を削減できるようにするため世界帝国の考え方を放棄(ほうき)“Renounce world empire” しましょう.

もう一度繰り返しますが,こうした提案が実現するには,人々,とりわけ指導者たちの考え方が大きく変わらなければなりません “…they require great changes in the people’s way of thinking, especially in that of the leaders.” . 政治家が何を決定するかはその国の国民がなにをもっとも価値あるものと考えるかによって決まります “Political decisions depend on what people value more, or most.” . 私たちが生きるのはなんのためでしょうか? “Why are we alive ?” この世で楽しむためでしょうか,それとも永遠に続く真の幸福のためでしょうか? “To enjoy on earth, or to be truly happy for eternity ?” この質問への答えは二者択一(にしゃたくいつ)でしょうか? “Is that an either-or question ?” 永遠とは存在するのでしょうか? “Is there an eternity ?” こう考えてくると,政治は宗教によるか,あるいは宗教の欠如(けつじょ)によるところ大です( “Thus politics depend on religion, or on the lack of it.” ). 今日起きる金融制度の崩壊がはたして人々の目を覚(さ)ますことになるでしょうか? (訳注後記)

キリエ・エレイソン.

英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教


* * *

最後のパラグラフの訳注:

原文・“Will today even a financial crash bring anyone to their senses ?”
「今日の金融制度の破綻(はたん)をきっかけに,人々が正気に返る(迷い〈迷夢〉から覚める)でしょうか?」

(解説)

◎「拝金主義」は競争と不安の種であって,最終的に誰をも幸福にしない.

◎ 人間の真の幸福は「平和な(安らかな)心や精神状態」のうちに存在するのであり,それは現世でも来世でも同じことである.

→ 新約聖書・マテオによる聖福音書:第6章19-34節参照.
THE HOLY GOSPEL OF JESUS CHRIST, ACCORDING TO ST. MATTHEW, 6:19-34

天の宝(6・19-21)
『自分のためにこの世に宝を積むな.ここではしみと虫が食い,盗人が穴をあけて盗み出す.
むしろ自分のために天に宝を積め.そこではしみも虫もつかず,盗人が穴をあけて盗み出すこともない.
あなたの宝のあるところには,あなたの心もある.』

清い目と心(6・22-23)
『*¹体の明かりは目である.目がよければ全身が明るい.目が悪ければ全身が闇(やみ)の中にいる.あなたの内の光が闇ならその闇はどんなに暗かろう.』

二人の主人,思い煩い,摂理(6・24-34)
『*²人は二人の主人に仕えるわけにはいかぬ.一人を憎んでもう一人を愛するか,一人に従ってもう一人をうとんじるかである.
神とマンモンとにともに仕えることはできぬ

だから私は言う,命のために何を食べようか,何を飲もうか,また体のために何を着ようかなどと心配するな.命は食べ物にまさり,体は衣服にまさるものである.
空の鳥を見よ.播(ま)きも,刈(か)りも,倉に納(おさ)めもせぬに,天の父はそれを養なわれる.あなたたちは鳥よりもはるかに優れたものではないか.あなたたちがどんなに心配しても,*⁴寿命をただの一尺さえ長くはできぬ.

なぜ衣服のために心を煩(わずら)わすのか.
野のゆりがどうして育つかを見よ.苦労もせず紡(つむ)ぎもせぬ.私は言う,ソロモンの栄華のきわみにおいてさえ,このゆりの一つほどの装(よそお)いもなかった.
*⁵今日は野にあり明日はかまどに投げいれられる草をさえ,神はこのように装おわせられる.ましてあなたたちによくしてくださらぬわけがあろうか.

信仰うすい人々よ.何を食べ,何を飲み,何を着ようかと心配するな.それらはみな異邦人(=神を信じない人,神の摂理に信頼しない人)が切に望むことである.

天の父はあなたたちにそれらがみな必要なことを知っておられる.
だから,まず神の国とその正義を求めよ.そうすれば,それらのものも加えて与えられる

明日のために心配するな.明日は明日が自分で心配する.一日の苦労は一日で足りる.』

(注釈)

*¹ (22-23節) 明かりが全身を照らすのと同じく,内なる目は人間のすべての行為を照らす.内なる目が欲望にくらまされているならば,人間の道徳生活は闇(やみ)である.

*² 富を有して神に仕えることもできるが,富の奴隷になれば神に仕えない.

*³ マンモンとはカルダイ語で富のこと.

*⁴「身の丈(たけ)」という訳もある.

*⁵ (30-34節)イエズスは将来への予備と働きを禁ずるのではない.ただ摂理(せつり)への信頼を裏切らせるほどの思い煩いを禁ずる.

「摂理」について
・=神.天地の創造主たる神が,神の法(=神の十戒・自然法=慈愛・正義・生命の法.)において永遠の計画と配慮のもとに万物を支配し治めておられることを指す.
・「神意,神のみ旨(むね),神の御意志,神の御心」
・Providentia divina(ラテン語),Providence(英語)

◎ 限界のある人間の力だけで,あくせくかき集めようとしたり,欲を張ったりせずに,人間の創造主であられる無限(=永遠)の父なる神に信頼し,真面目に善良に,正しく慈悲深い行いを心がけて生活をするなら,必要なものは全て神から必ず備えられる.
なぜなら,神はすべての人間の天の御父であられ,どんな人間をも(善人をも悪人をも)愛しておられるからである.人間が地上に生きる限り,たとえどんな人であっても神は決してお見捨てになることはない.
神を愛しその御子キリストの名を信じる人は,永遠の生命をすでに現世で持っている(ヨハネ聖福音書:第1章12-13節,ヨハネの第一の手紙:第5章13節参照).
限りある現世で善良に生きた人には,限りのない来世で神がその霊魂を引き取られ,永遠の至福をお与えになる.

◎ したがって,人間の真の幸福追求の目当てとしては「拝金主義」(=「すべて金〈カネ〉次第」とか,「金を目安に決めること」)は見当違いな手段である.

* * *

→ 旧約聖書・詩篇:第127篇参照.
THE BOOK OF PSALMS, PSALM 126

摂理によりたのむ

『*¹上京の歌.ソロモンの作.
主が家を建てられないなら,
それを造る者の働きはむなしい.
主が町を守られないなら,
番人の警戒はむなしい.

早く起き,寝るのを遅らせ,
労苦のパンを食べることもむなしい.
主は愛する者に,それを与えられる,
彼らが寝ている間に


見よ,子らは主の贈り物,
胎の実は主の報いである.

若いときの子らは,
つわものの手にある矢のようだ.

幸せなのはその矢で,
矢筒を満たした者.
*²門で敵と争うとき,
彼らは恥を受けない.』

(注釈)

神の助けがなければ,人間の労苦といえど何一つ実をもたらさない

*² 町の門では裁判や話し合いが行われていた.

* * *

→ 旧約聖書・格言の書:第10章参照(抜粋).
THE BOOK OF PROVERBS,
THE PARABLES OF SOLOMON, CHAPTER 10

『不正な方法で得た宝は身のためにならぬが,
正義は人を死から救い上げる.』 (2節)

『神は正しい人の望みをかなえ,
悪人の欲望をとげさせない.』 (3節)

『怠け者の手は人を貧乏にし,
働き者の手は人を金持ちにする.

夏の間に集めるのは利功者であり,
収穫のときに寝ているのは恥知らずである.』 (4-5節)

『正しい人のもうけは生活に役立ち,
悪人のもうけは悪事を呼ぶ.』 (16節)

『教えを守る人は生命の道を行き,
戒めを軽んじる人は道を迷う.』 (17節)

『*¹正しい人のくちびるは多くの人を養い,
愚かな人は貧しい中で死ぬ.』 (21節)

神の祝福は人を富ませ,
その上に何の苦労も加えない
.』 (22節)

『愚かな人は悪事を行って楽しみ,
利功者は知恵をつちかって楽しむ.』 (23節)

『悪人の恐れていることはその身に起こり,
正しい人の望みはかなえられる.』 (24節)

『嵐が過ぎたとき,悪人はもういないが,
正しい人はいつも立っている.』 (25節)

神は正しい人の砦(とりで)であり,
悪人にとっては滅びである
.』 (29節)

『正しい人は決してゆらがないが,
悪人は地に住めない.』 (30節)

『正しい人のくちびるは慈愛をしたたらせ,
悪人の口は悪をまく.』 (32節)

(注釈)

徳の幸福(10・22-32)

*¹ 正しい人は,自分だけでなく他人のためにも役立つ人である.

* * *