2010年1月5日火曜日

詩篇作者の視点

エレイソン・コメンツ 第130回 (2010年1月2日)

新しい年が始まりました.今年はどんな年となるでしょうか?かりに世界的な災難が金融・経済界に向かっているとしても,確かにまだ本格的には到来していません.2010年にそうした大災難が襲ってくるのでしょうか?いずれにせよ,その日はジリジリと近づくでしょう.苦難の重圧が高まるにつれ,その苦難の中に人のなす策謀でなく神の御手の業を見出すことがますます重要になってきます.ここに取りあげるのは,全150篇の詩篇のうちの一篇で,神に近い霊魂と同じように私たちが物事を観察できるよう,その手助けとして21世紀向けの注釈をつけたものです.詩篇第27篇(訳注:日本では第28篇)にはわずか9節しかありません:---

1 「主よ,私はあなたに向かって叫ぶ」(メディアや政府に向かってではありません.) 「私の岩(神)よ,耳をふさぎたもうな.私に向かって唖になられるなら,私は穴に下る人と等しくなろう.」
今日,力強いながらも緩やかな時流がすべての霊魂を地獄の永遠の業火へと押し流しています.神にとって私を助けることは容易にできることで,神はそうしたいと切に望んでおられるのですが,そのためには私は神に身を向け助けを乞わなければなりません.詩篇作者は神に懇願するでしょう -

2 「私があなたに向かって叫ぶとき,主よ,あなたの至聖所に向かって,手を伸べるとき,私の祈りの声を聞きたまえ. 3 私を悪人とともに,罪を行う人とともに引きたもうな.彼らは隣人に平和を語るが,その心には悪がある.」
詩篇作者は,人がすべて親切で善意にあふれていると偽るような生温(なまぬる)い自由主義者ではありません.この詩篇作者は,耳触りのよい話を口にする人は大勢いても,中には神にとって邪悪な敵となる者がいて,そういう連中は私たちが2010年に直面するような環境を丸ごと作り出すほど強力な力を持ち彼を地獄へ引きずり降ろしかねないことを知っています(1節).彼ら悪人に対処するため詩篇作者が頼るのは神です - 

4 「主よ,その行いによって,その悪行によって報い,その手の行為によって支払い,彼らに報復したまえ.5 彼らは主のみ業を,そのみ手の業を知ろうとしなかった.彼らを打ち滅ぼし,二度と立ち上がらせたもうな.」
私たちは,神が神の(そして私たちの)敵を始末されないのではないだろうかと訝(いぶか)る必要は決してありません.たとえ私たちの生きている21世紀において彼ら悪人たちが勝利をものにしているように思えるときでさえもその心配は不要です.彼らは神を欺(あざむ)けないし,神から逃れることもできません.もっと大事なことは,神は神を頼る霊魂たちに間違いなく配慮されるということです -

6 「主は祝されよ,私の願いは聞きいれられた.7 主は私の助け(,私の盾である).私は主によりたのみ(直訳:主に心を託す “my heart confided” ),そして,助け上げられ,私の心は喜んだ(別訳:私のからだはふたたび咲きほこった “my flesh hath flourished again” ).うたって主を祝そう.」
注目していただきたいのは,この詩篇作者が,自分はあまりにも完全無欠なので肉体的な関心はまるで不要というふりをしているひどくばかげた天使崇拝主義者ではないということです - 神が彼の「心 “heart” 」と「からだ “flesh” 」双方に配慮されているのですから.また,すべての神に属する人々のために彼が捧げた祈りが示すとおり,彼は自己中心の個人主義者でもないということです ---

8 「主は民の助け,避難所,油を注がれた者の救いである.(「油を注がれた者」の意味は,かつて私たちの主が十字架上で死去されて以来このかた,カトリック教会の秘跡によって聖別された霊魂たちのことです.)(訳注・司式聖職者は「聖別」される人の頭などに聖油を塗る.この節の本来の意味としては「神によって聖別された選民」のことを指すらしい.) 9 民を救い,主の資産( “Thy inheritance” )を祝し,それの牧者となり( “rule them” ),とこしえに,それを支え( “exalt them” )たまえ.」

今日私たちは,主よ,あなたのカトリック教会をお救いください,と神に祈りましょう.

キリエ・エレイソン.

英国ロンドンにて
リチャード・ウィリアムソン司教

* * *

(Psalms Chapter 27. A psalm for David himself.)
(聖書・詩篇第28(27)篇.ダビドの作.)

Unto thee will I cry, O Lord: O my God,
be not thou silent to me:
lest if thou be silent to me,
I become like them that go down into the pit.
主よ,私はあなたに向かって叫ぶ,
私の岩よ,耳をふさぎたもうな.
私に向かって唖になられるなら,
私は穴に下る人と等しくなろう.

Hear, O Lord, the voice of my supplication,
when I pray to thee;
when I lift up my hands to thy holy temple.
私があなたに向かって叫ぶとき,
主よ,あなたの至聖所に向かって,
手を伸べるとき,
私の祈りの声を聞きたまえ.

Draw me not away
together with the wicked;
and with the workers of iniquity
destroy me not:
Who speak peace with their neighbour,
but evils are in their hearts.
私を悪人とともに,
罪を行う人とともに引きたもうな.
彼らは隣人に平和を語るが,
その心には悪がある.

Give them according to their works,
and according to the wickedness
of their inventions.
According to the works of their hands
give thou to them:
render to them their reward.
主よ,その行いによって,
その悪行によって報い,
その手の行為によって支払い,
彼らに報復したまえ.

Because they have not understood
the works of the Lord,
and the operations of his hands:
thou shalt destroy them,
and shalt not build them up.
彼らは主のみ業を,そのみ手の業を
知ろうとしなかった.
彼らを打ち滅ぼし,
二度と立ち上がらせたもうな.

Blessed be the Lord,
for he hath heard the voice of my supplication.
主は祝されよ,
私の願いは聞きいれられた.

The Lord is my helper and my protector:
in him hath my heart confided,
and I have been helped.
And my flesh hath flourished again,
and with my will I will give praise to him.
主は私の助け,私の盾である.
私は主によりたのみ,そして助け上げられ,
*1私の心は喜んだ.
うたって主を祝そう.

The Lord is the strength of his people,
and the protector
of the salvation of his anointed.
主は民の助け,避難所,
*2油を注がれた者の救いである.

Save, O Lord, thy people,
and bless thy inheritance:
and rule them
and exalt them for ever.
民を救い,主の資産を祝し,
それの牧者となり,
とこしえに,それを支えたまえ.

(脚注)
(祈願と感謝の歌)
*1 他の訳,「私のからだはふたたび咲きほこった」.
*2 神に聖別された選民のことらしい.

(訳注・詩篇第27(28)篇の作者はダビド(古代イスラエルの二代目の王.西暦前10世紀頃から約40年間在位した.預言者でもあり,詩篇作者の一人でもあった.キリストはこのダビドの子孫から出ると預言されたので「ダビドの子」とも呼ばれる.現イスラエル国旗上に描かれる星印は「ダビドの星」と呼ばれイスラエル民族の象徴である).

(詩篇解説については,用語集に記載を予定.)