エレイソン・コメンツ 第155回 (2010年7月3日)
「司教閣下,私には理解できません! 最初に(エレイソン・コメンツ 第153回(以下,「EC153」),あなたは「教皇空位主義者」を非常によく見せて,聖ピオ十世会がすべて誤っているかのように仕向けました.その後,あなたは聖ピオ十世会のもう一人の反対者であるカスパー枢機卿を,さもバラの香りでもするかのように仕立て上げました.そのうえで,あなたは続けて,同枢機卿が教会の終焉(しゅうえん)を示す証しだと示唆(しさ)されたのです! 締(し)めくくりとして(EC154),あなたは結局のところ聖ピオ十世会が全く正しいと言われるのです! 私の頭は振り回されて混乱しています!」
「分かりました,まあ落ち着いてください! その答えの簡単な部分から始めて,だんだんと興味深い部分に移っていくことにしましょう.先週(EC154)私が述べたのは次のとおりです.すなわち,第二バチカン公会議がカトリック教の真理とカトリック教の権威を分離してしまったということ,そして,「教皇空位主義者」のように行き過ぎた「カトリック真理派」と、カスパー枢機卿のように行き過ぎた「教会権威主義者」の間にあって,聖ピオ十世会はカトリック真理の完全さとその真理と両立する範囲内の教会権威を共に擁護(ようご)する正しい解決策をとっているということです.当然ながら,この聖ピオ十世会のとる中庸(ちゅうよう)の立場は,「真理派」と「権威派」の双方から攻撃されます.だが,相容(あいい)れないそれら二つの誤りのいずれにも耳を傾けることは,両者の間の真の解決策が何なのかを理解する手助けになるでしょうし,またそうあるべきでしょう.」
「分かりました,閣下.でもどうしてあなたは,カスパー枢機卿が微笑んだだけで,カトリック教会は人間的には終焉したと,仰った(おっしゃった)のですか?」
「それは,カトリック教会に自(おの)ずから備わっているカトリックの真理を棄(す)てることは,教会の権威を棄てることよりもはるかに重大で深刻なことだからです.なぜなら,権威は真理に仕えるために存在するに過ぎず,したがって,カトリック真理こそが主たる存在で権威はそこから派生するだけにすぎないのです.「教皇空位主義者」はカトリック信仰を持っており(誤り導かれたキリストの代理者(=歴代教皇)が彼らのことを気にする理由がこれ以外にあるでしょうか?),彼らの良心は今なお正しいままにとどまっています(彼らの議論は非常に論理的で道理にかなっているように思えます).ところがそれに反し,カトリック信者が権威を理由に第二バチカン公会議とそれが提唱する人間の宗教を受け入れれば,その瞬間から彼は唯一の真の神の宗教であるカトリック信仰を失い始めることになり,自分の心にその矛盾を受け入れるよう強要することにより,心そのものを破壊し始めます.なせなら,これら二つの宗教,すなわち神の宗教と人間の宗教とは,その原理においても実践においても,まったく相矛盾するものだからです.あなたの周りを見てごらんなさい!
カスパー枢機卿の微笑はまさしく,最高位の聖職者たちがどれほどカトリック信仰を失ってしまったか(少なくとも人間の前に),そして第二バチカン公会議による「エキュメニカルな(=教会一致運動の)対話」の追求によって彼らの心がいかに破壊されてしまったかを示しました.神の完全性とは唯一の教会であるカトリック教会を創立されたイエズス・キリストのうちにあり,この点については必然的に,他のどの「教会」(訳注・英原語…小文字で始まる “church” - カトリック教会以外の「教会」を指す.カトリック教会は大文字で始まる “Church” で表示される.),宗教,非宗教も多かれ少なかれ異を唱えます.そうであるなら,どうしてカトリック教会の聖職者たちが,非カトリック教徒たちをカトリック信徒へと改宗させるという主目的以外のことで,彼らと話をすることができるのでしょうか? カトリック教に改宗させる以外の目的で「対話」することは,暗にイエズス・キリストが神であることを否定することになるのです.カスパー枢機卿が,聖ピオ十世会は自分のことを異端者と見なしていると考えても不思議ではありません.そこで彼はただ微笑むだけなのです.
というのも,同枢機卿は,カトリック教会の権威のために,一カトリック信徒が信じるすべてのことを自分も信じていると,依然として考えているからです.これは,同枢機卿が矛盾についてのあらゆる概念(がいねん)を失っていること,彼のカトリック信仰および心がなくなっていることを意味するのです.人の最高の能力がなくなってしまったとき,その人を救うものが心をおいて他にあるでしょうか? ただ奇跡が起こるのを待つほかありません.カスパー枢機卿は今日の聖職者たちの典型です.神からの奇跡が起こらない限り,今日の公的なカトリック教会は終焉しているのです.
キリエ・エレイソン.
英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教