2010年12月23日木曜日

資本主義の展開

エレイソン・コメンツ 第179回 (2010年12月18日)

社会は利己主義によっては成り立ちません.今は誰かが社会で自分の要求を通したいときには基本的にその人の持つ金銭にものを言わせる時代です.仮に経済用語以上の意味で,資本主義をすべての国民が望み通りに可能な限りの資本すなわち金銭を作れるような社会を組織する一手段であると定義するなら,資本主義は矛盾(むじゅん)に満ちたものとなります.その場合の資本主義は,誰もがみな利己的になるよう仕向けることで利己主義を要求する社会を作ろうとしていることになるからです.

こういうわけで資本主義は,その資本主義者社会の構成員たちが前資本主義者的価値観,たとえば常識,金銭追求にあたっての節度,公益の尊重などを持ち続ける限りにおいてだけ存続できます.そうでなければ,(上に定義したような利己的な)資本主義は構成員個々にとって不利に働きます.利己主義は無私無欲に反する働きをするからです.その場合,資本主義は寄生生物であり,前資本主義者的価値観の働く社会的身体に寄生して徐々に母体を蝕(むしば)み弱体化させていくのです.

金銭追求の上に築き上げられた社会に内在する矛盾は,世界金融,世界経済の現況の下で壊滅(かいめつ)的な結果に至っています.とくに第二次世界大戦が終わっていらい世界の人々は,かつて生きる目的を与えてくれた精神的な充足より今では物質的な充足を優先させ,ますます金銭追求を強めています.金銭を称賛し追求する人々は,投資家たちが自分たちの社会で権力を振るうことを喜んで許してきました.称賛され引っ張りだこになった投資家たちはますます金銭,権力の追求に熱中してきました.結局のところ,金銭,権力がさらに多くを得ようとするとき,それを抑制するどのような歯止めがそこに内在しているでしょうか?そんなものは何もありません.銀行家たちは紛れもない悪党へと変貌(へんぼう)してしまっているのです.

そういうわけで,たとえば,10年か15年前に考案された「デリバティブ」は,それを提供する銀行屋たちに手数料でひと財産築かせることはあっても,大量破壊兵器のように世界金融の精巧なメカニズムを壊す作用をする金融商品です.なぜならこの金融商品は巨額で返済不能な負債をいとも簡単に造り上げるからです.返済不能な負債で安定を失った詐欺(さぎ)的な世界では,各国政府が次々にどこからともなく大量の「金銭」をひねり出し,その負債を「支払う」ことで見せかけの秩序を維持しています.だが,このような処理の仕方は当該通貨のあらゆる有用性を空にしてしまうインフレに終わるだけです.かくして世界のあらゆる紙幣と電子マネーは - もう長年もの間それ以外にない状態ですが - 今や終焉(しゅうえん)を迎えています.

だが,通貨と社会の関係は潤滑油(じゅんかつゆ)とエンジンの関係に似ています.潤滑油なしでは,エンジンは故障し使い物にならなくなってしまいます.社会で通貨がなければ(物資・サービスの)交換はずっと困難になり商業は減速し行き詰まってしまうでしょう.もしこのような理由で食糧運搬トラックが走れなくなり食料不足が起きたら,とりわけ大都市で,政治家たちはどうやって食糧暴動を回避し農民たちが熊手を手に追いかけてくるのを食い止めることができるでしょうか?戦争を始めるしかありません!

第三次世界大戦もさほど遠くないことかもしれません.主よ,憐れみ給え!

キリエ・エレイソン.

英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教