2010年5月18日火曜日

眠れない教皇

エレイソン・コメンツ 第148回 (2010年5月15日)

カトリック伝統主義運動とは何かについて公会議主義下のローマがいかにひどく誤解しているかが,先週水曜日にパリで他のキリスト教会およびユダヤ人との宗教関係についてのバチカンの関連部門の長(訳注・「キリスト教一致推進評議会」議長兼「ユダヤ人との宗教関係委員会」委員長)であるカスパー枢機卿(訳注・Walter Kasper(ヴァルター・カスパー).ドイツ人)が記者会見を行った際に再度明らかになりました.ロイター通信社の記事からできるだけ忠実に,5項目に要約された同枢機卿の考えを引用し,その後で所感を述べさせていただきます.

(1)現在ローマ側の神学者四人と聖ピオ十世会の司教一人ならびに司祭三人との間で二カ月ごとに行われている教理上の論議は難航している. 2)主な問題点は伝統についての概念である.「私たちが求めるのは生きた伝統でしょうか,それとも石化した伝統でしょうか?」と,同枢機卿は(記者会見で)疑問を呈した.3)枢機卿は聖ピオ十世会との対話そのものには賛成だが,対話はローマが提示する条件の下で行われるべきであり,聖ピオ十世会の条件下で行われるべきではないと述べた. 4)仮に両者が合意に達するとすれば,聖ピオ十世会が譲歩しなければならず,同会が公会議の行った改革を受け入れなければならない. 5)もし合意に至らなければ,聖ピオ十世会は何ら公的地位を持たないこととなり,同会の司祭はカトリック司祭として認められず,聖職を執行することも許されないこととなる.

(1)2+2=4(カトリック伝統と聖ピオ十世会のよって立つ命題)と2+2=4または5(第二バチカン公会議と公会議主義のローマのよって立つ命題)を調整して一致させるのはむろん容易ではないでしょう.私たちは二つの極めて異なる算術概念に直面しており,それと同じくらいに相異なる二つのカトリック真理についての観念に直面しているのです.
(2)2+2=4は真理であり,その真理は不変かつ変更不可であり,それゆえに「伝統的」なのです.2+2=4または5というのは新しい算術です.人によっては「生きている」ととらえるでしょうが,それは全く実存しないものであり,したがって伝統的とはまるでかけ離れたものです.
(3)真の算術について議論するなら,議論は真の算術の条件に基づいてなされるはずで,議論しているいずれかの当事者による条件に基づいてなされるものではありません.それは,たとえ当事者のいずれかが条件について一定の立場を持っているとしてもです.
(4)誰が2+2=4または5(第二バチカン公会議による命題)という合意に達することを欲し,あるいは必要としているのでしょうか?真の算術など,もはやどうでもお構いなしという空想上の商人だけです!
(5)もし「公的地位」,「司祭としての承認」そして「聖職執行を許可されること」がすべて2+2=4または5の命題を受け入れるかどうかで決まるのであれば,そのような「地位」,「承認」および「許可」は,すべてカトリック真理という代価を払って買い取られたものだということになります.しかし,もし私がそのカトリック真理を売り払うとすれば,私はどうやってその真理を持ち続け人々にそれを語ることができるでしょうか? そして,もしカトリック真理を語ることができなくなってしまったら,私は(訳注・ローマ側の「司祭としての承認」付きで)どのような司祭になり得,(訳注・その結果)どのような聖職を執行することになるのでしょうか?

従って結論としては,彼らローマ側の者たちと聖ピオ十世会が別々の道を歩むのは,ただ「伝統」のみならず真理の本質そのものについて相違が存在するためなのです.真理の定義を変えることで,彼らローマの者たちはカトリック真理を失ってしまっており,少なくとも客観的に言えば,事実上彼らは,マクベスの「殺された眠り」((訳注・英国の戯作家シェイクスピア(William Shakespeare(1564(受洗礼年.正確な生年月日は不明)-1616)作の悲劇「マクベス」“Macbeth”におけるセリフ(“Methought I heard a voice cry “Sleep no more! Macbeth does murder sleep”,…「叫び声が聞こえた気がした,〈もう眠りは無しだ!マクベスは眠りを殺した〉…」― 《マクベス》第二幕第二場より)から引用.)) のように、カトリック真理を殺しているのです.同じロイターの記事によれば,教皇は,聖ピオ十世会の問題が「彼(教皇)から眠りを奪っている」(訳注・=聖ピオ十世会の問題が気がかりで「夜も眠れない」)と言ったと伝えられています.

教皇聖下,カトリック真理は聖ピオ十世会をはるかに上回って人知を超える高みに臨在(りんざい)しており(訳注・臨在=現存=presence.原文…“…the Truth is far above the SSPX,”),聖ピオ十世会はそれを守ろうとする束の間の小さな存在のひとつにすぎないことをどうか信じてください.私たち聖ピオ十世会会員の誰もが,聖下が万事良好で,とくに熟睡されるよう願っております.聖下を夜の安眠から妨げているのは聖ピオ十世会ではなく,抹殺されたカトリック真理なのです.

キリエ・エレイソン.

英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教