2010年2月10日水曜日

教皇の誤り(2)

エレイソン・コメンツ 第134回 (2010年2月6日)

聖ピオ十世会のティシエ・ドゥ・マルレ司教がフランス語で著した 100ページにおよぶ貴重な論文がこのほど英訳されました(truerestoration.blogspot.com 参照). 論文は教皇ベネディクト16世の教理理論について書かれたもので,「理性に脅かされるカトリック信仰」と題されています.論文の趣旨は標題がすべてを言い尽くしています.教皇ベネディクト16世は人間の理性がカトリック信仰を質的に低下させるのを許容している,というのがティシエ司教の主張です.ここでは問題の核心をつくティシエ司教の結論から以下の一節を引用しご説明します(以下引用).

「教皇ベネディクト16世は「継続という(聖書原典解釈学的)解釈」をしばしば主張されます.その意味するところは第二バチカン公会議とカトリック伝統派の立場を解釈すれば,両者の間に断絶はなく,むしろ継続性があることが分かるというものです.教皇の教えを吟味してみて,彼の言う「解釈」には私が当初考えたよりはるかに含蓄が深いものがあると実感しています.それは単にカトリック信仰と理性の新たな解釈ではなく,両者の新しい誕生を意味するもので,そのことは普遍的に当てはまるものだというのです.まず第一に,カトリック信仰と理性は相互を浄化させる作用を持つという解釈です:これによると,理性はカトリック信仰が耐えがたい状態に陥るのを食い止め,カトリック信仰は理性の持つ盲目的な自立を癒します.第二に,カトリック信仰と理性は相互を再生する作用を持つという解釈です:これによると,理性は啓発という考え方から生まれる寛大な価値観でカトリック信仰を一層豊かなものにします.カトリック信仰は今の時代に合うようにうまく再表現され,理性から耳を貸してもらえるようになります.そして,この一連の過程はあらゆる宗教,あらゆる論理方法にあまねく当てはまるというのです.単一の価値体系が万人に押しつけられなければ、世の中を動かし続ける豊かなもろもろの価値観はさらに強められるとしています.」

ここで注目していただきたいのは,ティシエ司教が自分でも認めておられるように,彼がいかに教皇の考え方の幅,深さを過小評価していたかということです.伝統主義を是とするカトリック教徒は,カトリック信仰を現代に合わせようとする第二バチカン公会議の試み(特に上述の太字体の部分)は誤りであり Church を滅ぼすものだと知っています.だが同時に彼らは,そうした公会議による試みは,たとえ誤り導かれたものだとしても,知性をもって考え出されたものであって,公会議がそれに信念を置いているのだと認めなければならないことも知っています.教皇は古い信仰のしかた( 訳注・原文= “the old way of believing” ),新しい考え方(訳注・原文= “the new way of thinking” )のいずれも正しいと深く信じています.そして,教皇は両者の間に横たわるように見えるあらゆる問題も自らの方法で解決すれば,人々はすべてまとまることができると確信しています.この「解決」こそが教皇が職務を続ける原動力となっています.

だが,悲しいことに,私は2+2=4と2+2=5を「4は4.5とあまり違わない(訳注・正確にはより少ない)」し「5も4.5とさほど違わない(訳注・正確にはより多い)」などと言ってひとまとめにすることはできません(訳注・原文…four is “more or less than four and a half”, while five is “more or less than four and a half”).なぜなら,四個のリンゴはあくまでも四個ですし,五個のオレンジはどう見ても五個でしかないからです.このように,真のカトリック信仰は誤った人は許せても,誤りそのものを許すことはできないでしょう.この場合,現代の理性はどうしたものか様子を見ようとするかもしれません.だが,理性が現代的であるかぎり,どうしても独自の視点,心眼(カント)(訳注・ドイツの哲学者 “Immanuel Kant”による理論.)を前面に押し出すことを強く主張(要求)するでしょう.ティシエ司教は論文の随所で,神が啓示された永遠不変のカトリック信仰は人間が編み出した現代の理性と共存できないことを明示しておられます.現代の理性は神そのものか少なくとも人々への神の要求(信教の自由)を締め出すよう意図され考案されているからです.

ティシエ司教閣下( “your Excellency” ),あなたに感謝します!なぜなら,教皇が抱く「私たちの時代における平和」への見通しがいかに魅力的であっても,私たちを天国へ導くのは魅力ではなく神の慈愛における真実(訳注・原語 “ truth in charity” )だからです.

キリエ・エレイソン.

英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教