2011年6月20日月曜日

人間の限界

エレイソン・コメンツ 第204回 (2011年6月11日)

ことしの4月上旬,2年間にも及んだ捜索(そうさく)の末,2009年6月1日大西洋の真っただ中に墜落したエールフランス・エアバス社旅客機( Air France Airbus )の残骸(ざんがい)が発見され,「ブラック・ボックス」として知られるフライト・レコーダーが数個回収された結果,いまだ謎(なぞ)の多いこの大惨事に不気味な光が当てられました.なんたる悲劇でしょうか!エアバスA330-200型機は高度3万8千(38000)フィート(約1万2千(12000)メートル)で失速後3分半のあいだ真っ直ぐに落下し大西洋に墜落,搭乗(とうじょう)していた全員,すなわち228人の霊魂を神の審判の座の御前に瞬時に登場させたのです.

AF447便にとっての問題のはじまりは,フランス・パリに向けブラジルのリオ・デ・ジャネイロを出発してから2時間後,大西洋上で遭遇(そうぐう)した夜間の悪天候だったようです.複数のブラック・ボックスから得た証拠に基づく結論はまだ最終的なものではありませんが,悪天候に次いで起きた問題は,航空機のピトー管から情報を引き出す飛行速度計が誤った測定値(そくていち)をパイロットたち(訳注・操縦士3人)に伝えたということかもしれません(訳注・=速度計の誤表示).航空機が失速し始めた時,パイロットたちは飛行継続に必要な加速のため機首(きしゅ)を下げる( “putting the nose down” )代わりに,失速状態に対応する別の手段を選びエンジンを上向きにしたようです.その際彼らは同時に機首を引き上げた( “pulled the nose up” )ようです.同機が決定的に失速する前に自動失速警告が何度か表示されたはずですが,いったん機体が落下し始めたときにはもはやパイロットたちはみな墜落を回避する術がなくお手上げの状態だったようです.

パイロットたちは機体を荒天の下へ向けるにかわりに上へ向けようとしたのでしょうか? 彼らは操縦室でますます支配的になってきていると思える電子機器装置に頼り過ぎたのでしょうか? 慌ててパニックに陥(おちい)ったでしょうか? (そうだとしても無理からぬことです! ) エール・フランス航空社の墜落事故原因(の解明)に関する最終調査結果が待たれますが,それに関連していくつかの点が明らかになっています.

私たちの誰しもが,さまざまな原因によりいつ死ぬかわかりません.突然訪れるそのような死の瞬間に,私たちは自らの霊魂を救う(訳注・=救霊)ために痛悔の祈り(訳注・神の赦しを請うため自分の犯した罪を悔む)を捧げるに足る時間,品位,心の平静を持ち備えていられるでしょうか? 差し迫る死の恐怖は生き残ろうとする本能以外のすべてのものを心から拭い去り(ぬぐいさり)得ます.現在では毎年何百万人もの乗客が素晴らしい飛行機で無事に大海を越えて移動していますが,その飛行機も大自然の諸々の力に比べれば全く取るに足らないほど小さくか弱いものにすぎません.「よしなさい,あなた達は自分が思っているほど万能の覇者ではありません.」と嵐が告げたその時,フライト中の乗客,乗務員は機内映画や機内食から手荒く現実世界に引き戻され,自然の重力の法則が飛行という人間の発明品に取って代わったとたんに,全員が墜落死するまでの210秒間のほとんどあるいは全部のあいだ恐怖のパニックに襲われたに違いありません.

672日間海底に沈んでいた後でもなお,回収された複数のブラック・ボックスは完全に機能していました.そして今そこに記録されたAF447便の最後の数分間の秘密を明らかにしつつあります.(飛行機とは)なんと優れたアイデア! なんと優れたデザインでしょう! だがその素晴らしく優秀な飛行機に搭乗していた乗客乗員の何人が永遠の世界に入る心の準備ができていたでしょうか? そして,もし人間が物質的な機械を作るために費やす知力と努力のわずか一部でも自分たちの霊魂の救いのために割(さ)きさえすれば,あとどれだけ多くの人々が死に直面しての心構えができていたかもしれなかったことでしょうか? 神の御母(聖マリア),私たちが放心や恐怖のパニックによって自分の霊魂を整え秩序を保つのを妨げられないよう,「今も臨終の時も」罪人なる私たちのために祈りたまえ.(訳注・部分的にカトリック教会の天使祝詞( Ave, Maria )祈祷文の後半部分が引用されている.)

キリエ・エレイソン.

英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教

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事故発生当時発表されたエレイソン・コメンツ 第101回 (アーカイブ,2009年6月13日付.)の和訳文を後から追加いたします.

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