エレイソン・コメンツ 第188回 (2011年2月19日)
運命の予言者は自分の評判を取ろうとはしませんが,もし彼らが神の使者だとしたら,真実を告げなければなりません.現在,そのような使者は政治や経済に関わりを持つべきではないと考える人々もいます.だがもし,政治が宗教にとって代わり,人間を神の場に置くことで必然的に誤った宗教と化してしまっていると仮定すればどうでしょうか?そして経済(あるいは金融)がまさに多くの人々を飢えさせようとしているのだと仮定したならどうでしょうか?神の使者たちが,アリストテレスとともに,もし人々が基本的な生活必需品に事欠く状態でどうやって道徳に適(かな)った人生を送れるのか,と尋(たず)ねることは許されないことでしょうか?有徳な人生など彼ら神の使者と無関係なことでしょうか?
そういうわけで,ここで権威ある米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の一記者の書いた注目すべき一節を引用したとしても私は間違っていないと思います.その記者は,ホワイト・ハウスの前主席報道官に批判的な記事を書いたことで,2006年夏,時のブッシュ大統領の上級顧問役から厳しく非難されたことについて語っています.記者は当時,その上級顧問役が自分に何を言おうとしているのか良く理解できなかったが,後になって,それがブッシュ大統領体制の核心に触れることだと分かった,と述べています.記者が引用した顧問役自身の言葉をここにご紹介します:--
その顧問は記者にこう言ったそうです.新聞記者のような人々は,「私たちが言う現実に基づいた社会の中にいるのです.その社会とは,つまりあなたのように,いかなる解決策も目に見える現実についての思慮分別ある学習から現れてくると信じる人たちのことですよ.」 顧問は,記者は昨日まで通じた現実の尊重という原則を忘れるべきだと言い,次のように付言したそうです.「世界はもはやそのような考え方では動いていないのです.私たちは今や一つの帝国であり,私たちが行動することで私たち固有の現実を創り出しているのです- あなたのなさるように思慮深く - そして私たちは再び行動し,別の新しい現実を創り出すのです.それをあなたたちも学習できるし,そうやって物事が解決していくのです.私たちは歴史の役者を演じているのです…そしてあなたは,あなた方はみな,私たちが演じる役をただ学習するだけにすぎないのですよ.」(キャサリン・フィッツの「2月2日付『私たちは金融クーデターの犠牲者』www. 321 gold をご覧ください.)(訳注・原文 “See www.321 gold, Feb 2, "We are Victims of a Financial Coup d'Etat", by Catherine Fitts”.)
現代世界がいかに幻想の上に動かされているかを道徳的に説いているこの話をしているのは私ではありません.話しているのは,ワシントンのインサイダー中のインサイダーです.彼はいかに現代世界が幻想の上に運営されているかを肯定的に誇っているのです.彼の言葉は,当時の政府のでっち上げ,例えば,9・11事件やサダム・フセインの「大量破壊兵器」などとまさに一致するのではないでしょうか.(それらのでっち上げは)政策を正当化するために「創り出した」ものであり,そうしなければ正当化は不可能だったのではないでしょうか?現実や現実を重んじる人々をこれほどまで軽んじるその傲慢(ごうまん)さは息を飲むばかりです.
古典ギリシャ人たちは顕現(けんげん)された神についての知識が何もない異教徒でしたが,神の世界の道徳的な骨組みたる現実が,彼らが見た通り,神々により統治されているとを明確に理解していました.どんな人間でも,たとえ英雄であろうと,そのような神の骨組みをこのブッシュの顧問のように否定する者はみな「傲慢」の罪を犯し,人間相応の身分を超えて頭を高くもたげていることになり,神々によりその罪に応じて粉々(こなごな)に粉砕(ふんさい)されるでしょう.
カトリック信徒のみなさん,もし神の恩寵が人間性を見捨てているとお考えなら,今日ますます必要とされている自然の様々な教訓について古代の異教徒たちから学び直すのが最良です.アイスキュロス作悲劇「ペルシャ人」に登場するクセルクセス( “Xerxes in Aeschylus' Persae” ),ソフォクレス作悲劇「アンティゴネ」に登場するクレオン( “Creon in Sophocles' Antigone” ),エウリピデス作悲劇「バッカスの信女」に登場するペンテウス( “Pentheus in Euripides' Bacchae” )に学びなさい(訳注後記).聖なるロザリオの祈りを確実に唱えるだけでなく,ほら,古典名作も読み,芋(いも)も植えて(=畑を耕〈たがや〉して),負債も支払うんですよ!
キリエ・エレイソン.
英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教
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(最後のパラグラフの訳注・「ギリシャ悲劇」について)
「クセルクセス」
・=クセルクセス一世.アケメネス朝ペルシア帝国の王(在位前486年-前465年).ダレイオス一世の子.前480年父の遺志を継いでギリシア遠征(ペルシア戦争)を行ったが,サラミスの海戦に敗れた.治世後半から側近の権力闘争が激化.謀殺された.
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「クレオン」
・テーバイの王ライオスの妃イオカステの兄弟.オイディプスが追放された後、テーバイ王となる.
・(テーバイ)
〈=テーベ,“Thebae”.〉古代ギリシャの重要都市.現シベ.テーベ伝説上のオイディプス王の首都で,古代ギリシャ悲劇の舞台として知られる.
・(解説)
悲劇「アンティゴネ」の作者ソフォクレスは,神の法(自然法)と人間の法ではどちらがより重要かを,多神教を信仰するアテネ市民(=ギリシャ人)に問うた.ソフォクレスは神の法を選んだ.彼はギリシャ国中にまん延しつつあった道徳の破壊が国家没落の原因となり得ることを認識していたことからギリシャ国民の傲慢(=ギリシャ語でhubris )さを警告した.「アンティゴネ」では最終的にテーベ王となったクレオンの傲慢が露呈(ろてい)している.この悲劇の前編「オイディプス王」(前430年頃)では,オイディプス王の傲慢が詳述されている.
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「ペンテウス」
・ギリシャ神話の人物.カドモスの娘アガウェがスパルトイの一人エキオンと結婚して生んだ子で,老齢のカドモスから譲位され,二代目のテーベ王になったが,ディオニュソス(=バッカス.ギリシャ神話の酒神,豊穣神)の信仰がテーベに広がるのを妨げようとして,従兄弟にあたるこの神を怒らせ,神罰によって八つ裂きにされて死んだ.このとき,彼の母や伯母たちが,信女たちの先頭に立って彼を害したという.
(ブリタニカ国際大百科事典,百科事典マイペディア他参照)